E型肝炎とは?~患者数、感染経路、診断・検査・治療、予防~
目次
E型肝炎とは?
ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方に感染・寄生する微生物により起こる感染症、いわゆる「人獣共通感染症」です。
E型肝炎ウイルス(HEV)は主に急性肝炎の原因となりますが、場合によっては慢性肝炎となったり、肝炎以外の問題(肝外症状)を起こすこともあるウイルスです。
野生のイノシシ、シカの他、飼育ブタもHEVに感染していることが多いことがわかっています。
これらの肉や内臓の生食、加熱不十分な状態での摂取により感染することで発症します。
日本では、ブタ肉からの感染が最多です。
疫学
世界では、年間2000万人が感染、300万人がE型肝炎を発症、55000人が死亡している感染症です(WHO推計)。
日本で年間15万人が感染、約1%の1500人が発症(低く見積もって)しているとの推計があります。感染者は50-60歳前後の中高年男性に多くみられます。
近年は報告数が急増しており、2018年は全国で400例を超える報告がありました(下記図)。
(国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報を参照。2018は50週(1/1~12/16)まで)
感染した方がみな発症するわけではなく、気づかないまま感染し治っている例が多いと言われています(不顕性感染)。
しかし、中には肝炎が重症化し、急性肝不全や劇症肝炎に至る例もあり、その場合の死亡率は高いことがわかっています。
2011年から、日本でも保険診療での検査が可能になり(IgA-HEV抗体)、報告数が急増しています(図)。
しかし、医師の間でも周知されているとは言えず、ほとんどの方は自然に治っていくので、「薬剤性肝障害」や「自己免疫性肝炎」などと診断され、気づかれていないE型肝炎もまだ多くあると思われます。
感染経路
HEVの主な感染経路は経口感染(汚染された水、食物)です。
発展途上国では、汚染された水(井戸水など)を介した感染が多いのですが、上下水道が発達した日本などの先進国では、ブタやイノシシ、シカなどの肉を介した感染が主です。
日本におけるE型肝炎の感染源で、判明したもので一番多いのは、ブタのレバー・ホルモン(35%)でした。その他、イノシシ、シカ、生の二枚貝からの感染が報告されています。
医療行為に関連した感染として、輸血による感染もありますが、2002~2014年の間で16例(日本)と多くはありません。
注意すべきは、45%は感染源不明であり、おそらく調理の際にウイルスに汚染された食物などを通じて感染が起きているものと思われます。
また、下記のような、E型肝炎が流行している国へ渡航する際は、水道水、食べ物からの感染に注意が必要です。
(FORTH|お役立ち情報|感染症についての情報|E型肝炎 より)
診断・検査
潜伏期:15~60日間
症状:倦怠感、発熱、吐き気、黄疸、腹痛、食欲不振など
血液検査で抗体(IgA-HEV)またはウイルス遺伝子(HEV-RNA)を調べることで診断されます。
治療・予後
対症療法
通常は一過性の感染に終わります。
免疫が低下した状態にある臓器移植後の患者さんなどでは、慢性化する場合があり、薬物を使った治療が必要となる場合があります。
E型肝炎の注意点です
・急性肝不全の合併が稀にある(0.5~4%)
・胆汁うっ滞による黄疸が数ヶ月間遷延することがある
・免疫抑制者(HIV感染者、臓器移植後の患者さん)では慢性化することがある
特に、妊娠中の女性、他の肝臓病をもっている方、臓器移植後の方は注意が必要です。
予防
・ブタ、シカ、イノシシ肉を食べる際は十分な加熱をすること
・これらの肉を調理する際に、周囲の食材・調理器具などの汚染を防ぐこと
・海外の流行地域(アジア、アフリカ、インド、パキスタン、ロシア、メキシコなど)へ渡航する際は、水、食べ物からの感染に注意し、加熱されていない食べ物や屋台での食事は避けること
参考(医療従事者向け)
HEV感染では、機序ははっきりわかっていませんが、肝炎以外に以下の様な多彩な症状が現れることがあります。
・神経障害(ギラン・バレー症候群、neuralgic amyotrophyなど)
・腎障害(膜性腎症、クリオグロブリン血症)
・血液障害(血小板減少、溶血性貧血、再生不良性貧血、リンパ腫)
・急性甲状腺炎
・急性膵炎
・心筋炎
・関節痛、筋痛
上記のうち、HEV感染との関連が明らかとされるのは神経障害、腎障害であり、その他は数例の合併例が報告されるのみで、現時点で関連は明らかではありません。
HEV患者さんを診る際はこれらの合併症に注意が必要ですし、逆に原因のはっきりしない上記疾病の患者さんに遭遇した場合、HEVの関与を疑うことも重要です。
(HEVと肝外症状についての詳しい情報はこちらを参照ください
Hepatitis E virus: Infection beyond the liver? J Hepatology 2017; 66: 1082-1095)