フレイルとは?

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寝たきり予防のために - とある内科医の日記 でも書きましたが、現在の日本においては平均寿命と健康寿命には約10年の差があります。

つまり、多くの方が人生の最後の10年を寝たきりやそれに近い状態で、介護を受けながら過ごしています。

 

寝たきり(要介護)となる3大原因は、

①認知症 ②脳卒中 ③高齢による衰弱です。

よって、寝たきりを予防するためには、上の3つを予防することが重要です。

 

フレイルとは?

おおまかにいうと、「寝たきり一歩手前」ですが、正式な定義は、

「加齢に伴う恒常性・生理的予備能の低下により、ストレスに対する脆弱性が亢進した状態」です。

フレイルは、自立と要介護の間に位置し、適切な介入により自立に戻すことができる状態とされます。

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(健康長寿教室テキスト- 国立長寿医療研究センターより

http://www.ncgg.go.jp/cgss/organization/documents/20160630kennkoutyoujutext. pdf

 

また、フレイルは身体的なことだけではなく、

・精神的フレイル(認知機能障害、抑うつ)

・社会的フレイル(独居、貧困、閉じこもり)

があり、これらも、将来寝たきりとなるリスクとなります。

 

生活習慣病、糖尿病、心臓病、腎臓病、慢性呼吸器疾患、肥満、がんなどの慢性疾患もフレイルの原因となります。継続的な通院、治療が重要です。

 

 

フレイルの具体例

具体例として、肺炎のため入院になった2人のある高齢者を考えてみます。

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1人はほとんど家から出ず、身の回りのことは妻にまかせきりの70歳男性、

もう1人は90歳と高齢だけど家の中でも外でも活発な女性。

入院をきっかけに寝たきりとなる、または死亡するリスクが高いのはどちらでしょうか? (2人とも特に大きな持病はないものと仮定)

 

このような場合、ケース1の70歳の男性の方は、肺炎をきっかけに寝たきりとなるリスクが高く、また、入院中にもいろいろと合併症を起こし、死亡するリスクも高くなります。

ご家族からは「これまでは特に病気らしい病気もせずに元気でした」などと言われることも多いですが、元々フレイル状態で寝たきり一歩手前なので、肺炎などのちょっとした病気の負荷にも耐えられません。

 

逆にケース2の90歳の女性の方は、数日間の抗生剤治療により改善し、1週間程度の入院で退院できる可能性が高くなります。

 

ケース1のような方は珍しくありません。

このようなフレイルに対して、病院という場でできることは少なく、むしろ日常の生活の中で、本人、その家族がフレイルの認識をして対処していくことが重要と考えています。

 

高齢者、その家族に意識していただきたい3つのことは、

①栄養(しっかり食べているか、体重は減ってないか)

②運動(歩いているか、外出できているか)

③社会参加(閉じこもっていないか、孤食ではないか)

 

外来で継続的に診療している高齢者の患者さんに対しては、私は上のようなことを気にかけています。

 

フレイルの診断

①体重減少 ②疲労感 ③活動量低下 ④歩行速度の遅延 ⑤筋力低下 により診断されます

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フレイルの予防・治療

下は、東京大学の飯島勝矢先生による健康長寿のための「3つの柱」です。

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3つの柱は、「栄養」、「運動」、「社会参加」

栄養

バランスのよい食事を、できれば一人ではなく、楽しく摂る

十分なタンパク質摂取(体重1kgあたり1.0~1.5g/日)を意識してください

(腎機能障害がある方はタンパク質過剰摂取に注意が必要)

 

運動

運動は、有酸素運動(ウォーキング)とレジスタンス運動(筋トレ)の併用がより効果的です

レジスタンス運動は、筋肉などの蛋白質合成を直接促進させると言われています

(持病をお持ちの方は、担当医師とご相談の上、食事・運動療法を実行してください)

 

社会参加

閉じこもらない

特に定年後の男性は、仕事でも趣味でもボランティアでもいいので社会とのつながりを保つことが重要です。

 

もし、現在すでにフレイル状態である場合も、対策をとることでフレイルから寝たきりへの移行を防ぐことが期待できます。

その際も、自身、家族でできること以外に

・訪問や通所のリハビリテーションによる筋力の維持・増強

・病院の栄養指導 

など利用できるサービスを最大限利用していただきたいと思います。

 

参考資料

健康長寿教室テキスト- 国立長寿医療研究センター 

www.ncgg.go.jp/cgss/organization/documents/20160630kennkoutyoujutext.pdfより全文入手可

フレイルの意義  荒井 秀典  日本老年医学会雑誌 2014; 51: 497-501