寝たきり予防のために

目次

健康寿命とは

「元気なまま歳を取って、人のお世話にならずにぽっくり逝きたい」というのは、多くの人が希望するところだと思います。

現実はどうか。2016年のデータでは、健康寿命は男性72.1歳、女性74.8歳です。

健康寿命とは、医療・介護のお世話にならず自立した生活ができる期間のことです。

平均寿命はそれぞれ、男性81.0歳、女性87.1歳ですので、健康寿命とは約10年の差があります。

つまり、日本人は平均して約10年を要介護状態で過ごしているのが現状です。

 

では、どのような原因で要介護状態となるのでしょうか。

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上は、要介護度別にみた介護が必要となった主な原因です

(厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況より)

 

寝たきり(要介護)の原因は、①認知症 ②脳卒中 ③高齢による衰弱です。

よって、寝たきりを予防するためには、これら3つをいかに防ぐかが重要です。

認知症、脳卒中、衰弱の原因には、年齢とともに起こってくる仕方のないものと、自分で予防できる、または医療・介護の介入により改善が期待できるものがあります。

 

特に、認知症、脳卒中には、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病など代表的な生活習慣病、タバコ、お酒の飲み過ぎなどの生活習慣が大きく関わっており、自分でコントロールできる、予防できる要素が大きいのです。

 

ですので、寝たきりにならないために大事なのは、

・生活習慣病にならない、きちんと治療する

・タバコを吸わない

・お酒を飲みすぎない

という当たり前のことを心がけることです。

当たり前のことがやはり大事なのです。

 

 

認知症の予防

平成28年度の国民生活基礎調査で、介護が必要となった主な原因として認知症が初めて1位になりました。

現在の医療では、すでに発症した認知症を改善するのは難しいです。

世界中でさまざまな研究が行われていますが、最近の研究報告においても、軽度認知症の進行を遅らせると期待された新薬(Solanezumab)は明らかな効果が確認されませんでした(N Engl J Med 2018; 378:321-330)。

 

つまり、認知症においても予防が重要です。

予防のためにできることは、

・高血圧、高コレステロール、糖尿病の適切なコントロール

・アルコール過剰摂取を控える

・適切な栄養摂取

・運動習慣をもつ

脳卒中の予防とほとんど同じことがわかります。

 

(参考)認知症を予防するための10か条

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(日本内科学会雑誌 2009; 98: 1765-1770より)

 

脳卒中を防ぐ

脳梗塞を起こすと、元の仕事に復帰して自立した生活ができる患者さんは半数未満(44%)に限られると報告があります。

そのため、発症しないこと、つまり予防が重要です。

 

脳卒中の主な危険因子は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙。

その他、運動不足、不健康な食生活、過度の飲酒、肥満、心臓病(心房細動)、ストレスやうつなどがあります。

これらに共通することは、動脈硬化を起こすということです。

 

繰り返しになりますが、大事なことは以下のとおりです

・高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の予防、治療

・禁煙、適度な飲酒

・バランスのよい食生活、適度な運動習慣

 

衰弱しない~サルコペニア、フレイルとは

どうしても加齢と共に、筋肉量・筋力は落ちていき、骨ももろくなっていく(衰弱)のは仕方ないことです。衰弱により転倒・骨折をしやすくなり、転倒・骨折は寝たきりの大きな原因です。

しかし、衰弱を遅くすることは可能です。

 

そこで、サルコペニア、フレイルという概念を知り、その対策を知っておくことは重要です。

 

サルコペニアは、「加齢に伴う骨格筋量の低下に歩行速度・握力等の身体機能の低下が合併した状態」とされ、

①骨格筋量の減少 ②筋力低下 ③身体機能低下(歩行速度)により判断します。

 

一般に、加齢と共に骨格筋量は低下しますが、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患:タバコ病)、慢性腎不全、慢性心不全、慢性肝炎など様々な疾患もサルコペニアの原因となります。

 

フレイルは、「加齢に伴う恒常性・生理的予備能の低下により、ストレスに対する脆弱性が亢進した状態」と定義されますが、大まかにいうと「あと一歩で要介護」という、自立と要介護の間に位置する状態です。しかし、フレイルは、介入により自立に戻すことができる状態とされます。

 

フレイルは、①体重減少 ②疲労感 ③活動量低下 ④歩行速度の遅延 ⑤筋力低下などの項目から診断されます。

 

つまり、

“加齢に伴い筋肉量が減り、筋力や身体の機能が低下した状態”=サルコペニア

“やせて、歩くのが遅くて、家からあまり出ない、寝たきり一歩手前”=フレイル

であり、サルコペニアはフレイルの主な要因です。

(※サルコペニア肥満といって、一見痩せていなくても、脂肪量が多いだけで筋肉量は少なくなっていることがありますので注意が必要です)

 

また、サルコペニア・フレイルは認知機能障害(認知症)と大いに関連し、サルコペニア・フレイルがある人は認知症になりやすく、逆に認知症がある人はサルコペニア・フレイルが進行していくことがわかっています。

 

寝たきりとなる前に、サルコペニア・フレイルに対して対処をすることが重要です。

 

 

サルコペニア、フレイルの治療

筋力を維持し、活動的な生活を続けること

中心は、運動療法、食事療法です。

運動は、ウォーキングのような有酸素運動と、筋トレのようなレジスタンス運動の併用がより効果的とされます。

栄養は、十分なタンパク質摂取(1日体重あたり1.0~1.5g:体重50kgの方の場合、タンパク質50~75g/日)が重要ですが、腎機能障害がある方は、主治医に確認が必要です(一般に、高度の腎障害がある時は1.0g/kg/日程度に留める)

 

フレイルについては、こちらも参照ください フレイルとは? - とある内科医の日記

 

まとめ

ここまで、

・健康寿命と平均寿命には差があること

・寝たきりの主な原因として、認知症、脳卒中、衰弱(フレイル、サルコペニア)があること

・これらの予防としては、生活習慣(病)が重要であること

がわかりました。

 

また、対処法としては、食生活、栄養、禁煙、運動などの生活習慣が大事であることを確認しました。

医療・介護まかせではだめで、本人・家族の意識、取り組みが重要です。

健康のためにも、寝たきり予防にも、「これを食べれば大丈夫」などの近道はありません。

日々の生活習慣こそが寝たきり予防のための鍵となります。

 

参考資料

厚生労働省 平成26年度 「介護保険事業状況報告(年報)」

厚生労働省 平成28年 「国民生活基礎調査の概況」