E型肝炎とは?~患者数、感染経路、診断・検査・治療、予防~

目次

E型肝炎とは?

ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方に感染・寄生する微生物により起こる感染症、いわゆる「人獣共通感染症」です。

E型肝炎ウイルス(HEV)は主に急性肝炎の原因となりますが、場合によっては慢性肝炎となったり、肝炎以外の問題(肝外症状)を起こすこともあるウイルスです。

 

野生のイノシシ、シカの他、飼育ブタもHEVに感染していることが多いことがわかっています。

これらの肉や内臓の生食、加熱不十分な状態での摂取により感染することで発症します。

日本では、ブタ肉からの感染が最多です。

 

 

疫学

世界では、年間2000万人が感染、300万人がE型肝炎を発症、55000人が死亡している感染症です(WHO推計)。

日本で年間15万人が感染、約1%の1500人が発症(低く見積もって)しているとの推計があります。感染者は50-60歳前後の中高年男性に多くみられます。

近年は報告数が急増しており、2018年は全国で400例を超える報告がありました(下記図)。

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(国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報を参照。2018は50週(1/1~12/16)まで)

 

感染した方がみな発症するわけではなく、気づかないまま感染し治っている例が多いと言われています(不顕性感染)。

しかし、中には肝炎が重症化し、急性肝不全や劇症肝炎に至る例もあり、その場合の死亡率は高いことがわかっています。

 

2011年から、日本でも保険診療での検査が可能になり(IgA-HEV抗体)、報告数が急増しています(図)。

しかし、医師の間でも周知されているとは言えず、ほとんどの方は自然に治っていくので、「薬剤性肝障害」や「自己免疫性肝炎」などと診断され、気づかれていないE型肝炎もまだ多くあると思われます。

 

 

 

 

 

感染経路

HEVの主な感染経路は経口感染(汚染された水、食物)です。

発展途上国では、汚染された水(井戸水など)を介した感染が多いのですが、上下水道が発達した日本などの先進国では、ブタやイノシシ、シカなどの肉を介した感染が主です。

日本におけるE型肝炎の感染源で、判明したもので一番多いのは、ブタのレバー・ホルモン(35%)でした。その他、イノシシ、シカ、生の二枚貝からの感染が報告されています。

 

医療行為に関連した感染として、輸血による感染もありますが、2002~2014年の間で16例(日本)と多くはありません。

注意すべきは、45%は感染源不明であり、おそらく調理の際にウイルスに汚染された食物などを通じて感染が起きているものと思われます。

 

また、下記のような、E型肝炎が流行している国へ渡航する際は、水道水、食べ物からの感染に注意が必要です。

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 (FORTH|お役立ち情報|感染症についての情報|E型肝炎 より)

 

診断・検査

潜伏期:15~60日間

症状:倦怠感、発熱、吐き気、黄疸、腹痛、食欲不振など

血液検査で抗体(IgA-HEV)またはウイルス遺伝子(HEV-RNA)を調べることで診断されます。

 

 

治療・予後

対症療法

通常は一過性の感染に終わります。

免疫が低下した状態にある臓器移植後の患者さんなどでは、慢性化する場合があり、薬物を使った治療が必要となる場合があります。

 

E型肝炎の注意点です

・急性肝不全の合併が稀にある(0.5~4%)

・胆汁うっ滞による黄疸が数ヶ月間遷延することがある

・免疫抑制者(HIV感染者、臓器移植後の患者さん)では慢性化することがある

 

特に、妊娠中の女性、他の肝臓病をもっている方、臓器移植後の方は注意が必要です。

 

 

予防

・ブタ、シカ、イノシシ肉を食べる際は十分な加熱をすること

・これらの肉を調理する際に、周囲の食材・調理器具などの汚染を防ぐこと

・海外の流行地域(アジア、アフリカ、インド、パキスタン、ロシア、メキシコなど)へ渡航する際は、水、食べ物からの感染に注意し、加熱されていない食べ物や屋台での食事は避けること

 

 

参考(医療従事者向け)

 

HEV感染では、機序ははっきりわかっていませんが、肝炎以外に以下の様な多彩な症状が現れることがあります。

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・神経障害(ギラン・バレー症候群、neuralgic amyotrophyなど)

・腎障害(膜性腎症、クリオグロブリン血症)

・血液障害(血小板減少、溶血性貧血、再生不良性貧血、リンパ腫)

・急性甲状腺炎

・急性膵炎

・心筋炎

・関節痛、筋痛

 上記のうち、HEV感染との関連が明らかとされるのは神経障害、腎障害であり、その他は数例の合併例が報告されるのみで、現時点で関連は明らかではありません。

HEV患者さんを診る際はこれらの合併症に注意が必要ですし、逆に原因のはっきりしない上記疾病の患者さんに遭遇した場合、HEVの関与を疑うことも重要です。

 

(HEVと肝外症状についての詳しい情報はこちらを参照ください

Hepatitis E virus: Infection beyond the liver? J Hepatology 2017; 66: 1082-1095)

 

 

 

(読書日記)スタンフォード式 最高の睡眠

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著者は、世界トップの睡眠研究を誇るスタンフォード大学教授で、同大学の睡眠生体リズム研究所の所長を務める方です。

 

現在の日本社会で、毎日7~8時間の質の高い睡眠が確保できる方というのは多くないのが現状かと思われます。

そんな中で少しでも質の高い睡眠を確保するために役立つヒントがありました。

 

最高の睡眠のためのキーワードは「眠りはじめの90分」

眠りはじめの90分は、睡眠のゴールデンタイムで、自律神経の調整、成長ホルモンなどの分泌が行われ、心身のコンディジョンが整うための重要な時間。

とにかくこの90分をぐっすり眠ることが大事とのこと。

 

睡眠は、仕事を含めた日中のパフォーマンスだけでなく、健康状態も大きく左右する重要な営みであり、時間としても人生の約1/3を占めるものです。

 

・満足な睡眠が得られていない

・日中のパフォーマンスを向上させたい

そんな方にとって参考になる1冊だと思います。

                

 

目次

0章 「よく寝る」だけでパフォーマンスは上がらない

1章 なぜ人は「人生の3分の1」も眠るのか

2章 夜に秘められた「黄金の90分」の法則

3章 スタンフォード式 最高の睡眠法

4章 超究極! 熟眠をもたらすスタンフォード覚醒戦略

5章 「眠気」を制する者が人生を制す

 

印象に残ったポイントです

・睡眠は量より質

・睡眠の質は、眠りはじめの90分で決まる

・最初の90分の睡眠でつまずくと、どれだけ長く寝ても自律神経は乱れ、日中の活動を支えるホルモンの分泌にも狂いが生じる

(経験として納得。病院の当直で、深夜に業務が落ち着いたところでベッドに入ったものの、寝始めたところでまた起こされることがよくありますが、その後はもはや眠れず、次の日の調子も最悪です。)

・夜勤明けの医師は頭が働いていない(Sleep 2005;28: 1386-1391 こんなことにも科学的なエビデンスが

・ショートスリーパー(短時間睡眠で平気な人)は時々いるが、それは遺伝で決まる(Science 2009; 325: 866-870)

 

眠らないことによる身体的悪影響

・インスリン分泌が悪くなり、血糖値の上昇、糖尿病のリスクが上がる

・食べ過ぎを抑制するホルモン「レプチン」の分泌が悪くなり、太る

・食欲亢進ホルモン「グレリン」の分泌が増え、太る

・交感神経の緊張が続き、高血圧になる

・精神不安定になり、うつ病、不安障害、アルコール依存、薬物依存のリスクが高まる

 

・1日1時間以上の昼寝は、認知症、糖尿病のリスクを高める

・週末の寝だめでは寝不足による睡眠負債は解消できない

 ・眠りはじめの90分に成長ホルモン、プロラクチンがもっとも多く分泌される→アンチエイジングにもつながる

 

睡眠の5つのミッション

①脳と体に休息を与える

②記憶を整理して定着させる

③ホルモンバランスを調整する

④免疫力を上げて病期を遠ざける

⑤脳の老廃物をとる

 

・最初の眠気のタイミングを逃さない。眠くなったらとにかく寝てしまわないと、その後深い眠りは訪れず、いくら長く寝てもいい睡眠にはならない。

 

どうしても睡眠時間が確保できないとき

→眠気があればまず寝てしまい、黄金の90分が終了したときに起きる

 

「体温」と「脳」に眠りスイッチがある

体温(深部体温)の低下が睡眠には欠かせない

・皮膚温度と深部体温の差が縮まったときに入眠しやすい(Nature 1999; 401: 36-7)

・入浴は就寝90分前を目安に

 

脳の興奮を抑え、スイッチを切る

・寝る前は頭を使わない 

・部屋を暗くする

・パソコン・スマホは見ない

・寝る前の運動・食事を避ける

 

質のよい睡眠のためには、「どう起きているか」が重要

・朝は光を浴びる、冷水で手や顔を洗う、朝食は食べる

・夕食も食べる(食べないとオレキシン分泌が促進され、食欲増大、覚醒して眠れなくなる)

 

               

 

睡眠時無呼吸症候群(SAS)~眠りの質は寿命をも左右する

 

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SASとは?

睡眠時無呼吸症候群(SAS: sleep apnea syndrome、「サス」と読みます)とは、睡眠中に呼吸が浅くなったり、止まったりすることで、身体に様々な悪影響が出る病気です。

 

2003年の新幹線の居眠り運転事故において、運転士が重症のSASであったことから日本でも有名になりました。

また

・チェルノブイリ原発事故

・スペースシャトル チャレンジャー号爆発事故 

などの歴史的な事故においてSASの関与が言われていますし、その他重大な交通事故の多くにSASの関与が疑われています。

 

また、SASはこれら、日中の眠気などを起こすだけでなく、様々な病気のリスクを高めることがわかっています。

代表的なものとして

・高血圧

・糖尿病

・心臓病(心筋梗塞、心不全、心房細動などの不整脈など)

・脳卒中

・認知症

・大動脈解離

・突然死

などがあります。

 

 

つまり、SASは健康にとって極めて大事な病態です。

推測では、日本人のSAS患者は、治療が必要な中等度以上の人だけでも300~400万人はいると言われていますが、きちんと診断・治療を受けている方はほんの一部と思われます。

 

 

 

OSAS

SASにも様々なものがありますが、最も頻度が高く、かつ重要なのが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS: obstructive sleep apnea syndrome)です。

 

OSAS発症の3大要因は、

①肥満  ②男性  ③加齢 です。

つまり、中高年以上の肥満男性はOSASを起こす危険性が高いと言えます。

 

しかし、日本人では肥満のないOSASが多いことがわかっており、太っていないから安心というわけではありません。

 

下記のような症状に当てはまる方はOSASを疑うことが大事です

・朝すっきり起きられない(だるい、頭痛がするなど)

・昼間の眠気、集中力低下

・元気が出ない(抑うつ状態)

・いびきをよく指摘される

・夜間頻回に目が覚める、夜間頻尿、就寝中に息苦しくなる

 

また、OSASは高血圧患者さんに多いことがわかっており、特に薬を飲んでもなかなか血圧が下がらない(治療抵抗性)高血圧の方は要注意です。

 

 

SASが健康に与える影響

SASは様々な面で身体に負担を与えますが、その代表が無呼吸による「低酸素」です。

「寝ながら首を絞められている」ようなものなので、身体はリラックスできません(交感神経の機能亢進)。ストレス状態が続くと、血圧・血糖は上がり、慢性的な炎症なども合わさって動脈硬化が進み、心臓病、脳卒中などのリスクが高まります。

また、低酸素は癌のリスクを高めるとも言われています。

 

下は、睡眠中の低呼吸、無呼吸発作時に血圧が急上昇する様子を捉えた報告です。

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(Kario K, Prog Cardiovasc Dis 2016; 59: 262-281.より引用)

(Hypopnea:低呼吸、Apnea:無呼吸)

低呼吸、無呼吸がある程度持続したところで低酸素となり血圧が急上昇していることがわかります。寝てはいても、自律神経や身体は休めていません。

 

SASの方は、睡眠中にこのような血圧の急激な変動が一晩中起こっており、身体ははダメージを受け続けるのです。

 

 

診断

まずは、疑うことが重要です。

上に挙げたようなSASを疑う項目に当てはまる方は、一度医師に相談することを勧めます。

 

ただし、検査が可能な医療機関は限られています。

こちらから検索できます。

全国の医療機関一覧|睡眠時無呼吸なおそう.com – 睡眠時無呼吸症候群のポータルサイト

 

治療

その方の病態、重症度に合った治療法が選択されます。

代表的な治療としては、以下のようなものがあります。

・マウスピースなどの口腔内装置

・nasal CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)

・扁桃摘出術(扁桃肥大が原因の場合)

 

 

まとめ

OSASはありふれた疾患であり、健康状態や日常生活のパフォーマンスに極めて大きな影響を及ぼすため、その存在を知り、適切な診断・治療を受けることは重要です。

 

SASについて、もっと詳しく知りたい方はこちらもご参照ください

医療機器メーカー 帝人のサイトで、わかりやすくまとまっています

659naoso.com

 

 

 

感染性胃腸炎の流行拡大中 ~ノロウイルス対策について

 

例年冬になると、感染性胃腸炎の流行が始まります。

下のグラフは、2018年第49週(12月3日~12月9日)までの感染性胃腸炎の報告数ですが、45週頃(11月中旬)から報告数が徐々に増加してきていることがわかります。

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この冬における感染性胃腸炎の流行の主な原因微生物が、「ノロウイルス」と言われています。

 

ノロウイルスとは?

胃腸炎の原因となる小型のウイルスで、食品などを介して口から体内に入ることにより感染します。

潜伏期は1~2日。

 

典型的な例としては、生のカキを食べた翌日~翌々日あたりから繰り返す嘔気・嘔吐、水様性下痢が始まります。発熱、腹痛がみられることもあります。

 

症状は2~3日以内に自然に治まることがほとんどですが、嘔気・嘔吐が激しく脱水症などを起こした場合は、点滴や入院が必要になることもあります。

 

しかし、生物も食べていない、周囲に同様の症状もいないなど、感染源が不明な場合も多くみられます。

 

 

診断

病院には検査キットがありますが、適応は以下に限られており

・3歳未満の小児

・65歳以上の高齢者

・がん、臓器移植後、免疫抑制治療中で免疫不全がある方

上記以外の方は保険を使った検査は受けられません(自費診療)。

 

多くは生カキの摂取や周囲に同様の症状の方がいるなどの状況、嘔吐・下痢などの症状から診断されます。

 

 

治療

ノロウイルスに特異的な治療(抗ウイルス薬など)はありません。

吐き気止め、点滴などの対症療法が行われます。

下痢に対して下痢止めは原則使いません。

下痢は有害なものを体外に排出しようとする身体の機能としての一面があるからです。

 

 

ノロウイルス対策

<感染対策>

・手洗い、食品の十分な加熱

・カキなど二枚貝の生食は避ける

・自宅外のトイレの蛇口の取手、ドアノブなどはなるべく素手で触らない

 

<二次感染対策~人にうつさない、うつされないために>

ノロウイルスでは、すでに胃腸炎を発症している人からの感染に注意が必要です。

ノロウイルスは感染力が強く、嘔吐物が乾燥して空気中に舞い上がったものを吸い込むだけでも感染すると言われています。

実際、嘔吐、下痢をしている家族のお世話などで感染するリスクが高く、家族内感染も多くみられます。

 

そこで重要なのが吐物、排泄物の処理の仕方です。

マスク、手袋は必須です

 

また、ノロウイルスはアルコール消毒には抵抗性を示すため、次亜塩素酸(じあえんそさん)による消毒を行います。

しかし、次亜塩素酸の消毒液は普通の家庭にはありませんので、「キッチンハイター」などを水で薄めて(希釈)代用します。

消毒液の作り方はこちらのサイトがわかりやすいです。

 広島市 - 消毒液の作り方と使用上の注意(次亜塩素酸ナトリウム)

 

 

最後に

ノロウイルス胃腸炎は短期間で自然に治り、元々健康な人がかかっても命にかかわることはほぼありません。しかし、嘔気・嘔吐症状が非常に強いので、かかるととてもつらい感染症です。

 

問題は、体力、免疫力に問題のある高齢者、小さな子ども、妊婦さんなどが感染してしまうと、入院が必要になったり、時には死に至ることもあることです。

 

我々医療従事者は、自分が感染して勤務先(医療機関や介護施設)で患者さんや入所者の方に感染を拡大させることは絶対に避ける必要があるのと、かかったときのきつさを身近に見ているため、生カキの摂取は避ける人が多いです。

 

これからお正月まで、美味しいものを食べる機会が多くなると思いますが、せっかくの年末年始に胃腸炎で苦しまなくていいように、手洗いなどのできる予防策は取っておきたいですね。

 

 

参考

ノロウイルスについてわかりやすくまとめられたサイトです

嘔吐物の処理方法の動画もあります

www.m-ipc.jp

 

 

梅毒流行に注意!2018年報告数はすでに6376件と2000年以降断トツの多さ

ここ数年の梅毒患者数の急激な増加を受けて、人気医療マンガ「コウノドリ」の梅毒に関連したエピソード4話が無料で公開されています(12月14日~12月20日)。

読んでみましたが、梅毒の臨床像(症状、感染経路)、その問題点がうまく表現されておりわかりやすく理解できます。

https://comic-days.com/blog/entry/kounodori_baidoku

 

下に示すのは、2010年~2017年までの日本における梅毒の報告件数ですが、特に2013年以降急激に増加していることがわかります。

2018年ですが、1/1~12/2までの間ですでに6376件と、2017年を更に上回っています。

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梅毒の発生動向の調査及び分析の強化について(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000203809.pdf

 

 

「コウノドリ」でも示されていた梅毒の問題点とは?

 ・最初は発熱や痛みなどが目立たない→病院受診せず、放置されることがある

・感染力が強い→パートナーへ容易に感染する

・オーラルセックスでも感染する→コンドームをすれば安心ではない

・妊婦における感染→先天梅毒という障害を持った赤ちゃんが生まれる可能性

 

先天梅毒は、報告数こそは少ないですが(日本で年間数例~十数例程度)、死産、新生児死亡、重篤な障害となる可能性があり、非常に問題となります。

また、最近は性風俗での感染が多いことが推測されており、コウノドリのエピソードにもあったような、「風俗で梅毒をもらった男性が妻にうつす」といったことは、実際にも起こっていると思われます。健康面だけの問題ではなく、離婚、家庭崩壊のリスクにもなります。

 

感染しても抗生剤を飲めばいいんじゃない? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、早期に治療すれば予後は悪くない感染症ですが、ときに大変な事態となることがあります。

例えば、2018/11の感染症学会において、梅毒により陰茎に大きな潰瘍ができ、形成外科的な手術が必要になった症例が紹介されていました。

 

当たり前のことですが、重要なのは、

まず感染予防(リスクのある性行為を避ける)

・梅毒感染に思い当たることがある場合、早期受診による早期診断、適切な抗菌薬治療

 

早期診断のため、次のような事柄に該当する方は、梅毒検査を検討してください。

・思い当たる行為がある(風俗利用、不特定多数との性行為、男性同性愛)

・他の性感染症と診断された

・陰部に潰瘍ができた

・足の付根(鼠径部)にしこりが触れる

・全身、特に手の平に発疹ができている

 

(参考資料)

梅毒に関するQ&A|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/qanda2.html

 

梅毒とは 国立感染症研究所

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html

 

健康診断で腫瘍マーカーを測るべきか?

 

健康診断で腫瘍マーカーを測るべきか?

健康診断で腫瘍マーカーが高いと言われたら

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はじめに

・腫瘍マーカー検査は、早期がんの発見に有用ではありません

・健康で症状のない方は、がん発見のための腫瘍マーカー測定は勧められません

  

腫瘍マーカーとは

腫瘍マーカーとは、がん細胞が産生する物質、または体内にがんがあることに反応して身体が産生する物質で、血液検査などで測定が行われているものを指します。

 

腫瘍マーカーには様々な種類があり、中にはがんに特異的(ある腫瘍マーカーが上昇している場合は、ある特定のがんである可能性が高いこと。例:肝臓がんのPIVKAⅡなど)なものもあります。一方で、様々な種類のがんにより上昇する腫瘍マーカー(CEAなど)もあり、その場合は検査をしないとどこにがんがあるのかはわかりません。

 

腫瘍マーカーの役割

 よくある誤解ですが

・腫瘍マーカーは、早期のがんを発見するための検査である

・がんがあれば腫瘍マーカーは必ず上昇する

・腫瘍マーカーが正常であれば、がんである可能性はない

これらはすべて間違いです。

 

腫瘍マーカーは早期のがんの発見にあまり役に立ちません(偶然見つかることもまれにありますが)し、がんがあっても腫瘍マーカーが正常のこともしばしばです。

なので、腫瘍マーカーが正常でも、がんの存在を否定することはできません。

 

では、腫瘍マーカーはどのような場合に有用なのか。

・がん治療を受けている患者さんにおける、治療効果の判定や再発の早期発見

に主に使われています。

 

 

健診で腫瘍マーカーを測ることの意義

健康診断や人間ドッグにおいて、オプション(追加料金を払って検査を追加する)で腫瘍マーカー測定を勧められる場合があると思います。もし健康でとくに症状がない場合、腫瘍マーカー検査を受ける意味はあまりなく、逆に有害(必要のない精密検査を受けるはめになる)となる場合もあります。

健診でよく測定される腫瘍マーカーの代表として、CEACA19-9があります。

たとえば、健診でCEAを測定したところ、6.0 ng/mLだったとします(正常値:5.0ng/mL未満)。

少しとはいえ基準値を超えているので、「要精査」の判定で紹介状を渡されることになります。

人によっては、がんになったのかという不安により、病院を受診するまで夜も眠れないといったことになる方もいらっしゃいます。

では、病院を受診した後はどうなるでしょうか。

 

二次検診を担当する医師の側の視点

特に体調に問題のない方が、健康診断で何気なく腫瘍マーカーを測定して、軽度の異常値を指摘されて、二次検診で病院を訪れた。

そんな場合、医師の側は何を考え、どう診療していくか。

 ・症状がある場合

 もし何か症状がある場合は、それをヒントに問診、検査を進めることができます。

 例えば、咳、痰がある→胸のレントゲン、必要によっては肺のCTを撮るでしょう。

 食欲不振、胃もたれ、便秘など胃腸に関する症状があれば、胃カメラや大腸カメラを勧め、腹痛や背部痛があれば腹部エコーや腹部のCTを考えます。

 

・症状がない場合

 この場合が非常に悩ましい状況になります。なぜなら、

・腫瘍マーカーはがんがなくても上昇することがある

・もし、がんがあっても、どこの臓器のがんかわからない

・がんがあるのかないのかは、CTや内視鏡などの検査をしないとわからない

からです。

具体的に、健康で症状のない方が、CEA 6.0ng/mLと軽度の上昇を指摘された場合を考えます。

CEAは、加齢、喫煙、糖尿病、慢性肝疾患、腎臓病、胃潰瘍、胆石など、がんでなくても上昇することがあります

また、CEAが上がるがんには、胃がん、食道がん、大腸がん、膵がん、胆管がん、肺がん、乳がん、子宮がんなど様々な種類のがんがあります。

つまり、全身の精密検査をしないと、がんかどうか、どこのがんかもわからないのです。

二次検診として受診された以上、医師としてはがんを見逃すわけには行きませんので、

・胃カメラ

・大腸カメラ

・胸~骨盤までのCT(造影剤使用)

・女性であれば、上記+婦人科診察や子宮卵巣のエコー・MRI、乳腺の診察・エコーなど

を勧めることになります。

稀にはそこで早期のがんが見つかることもあるかもしれませんが、症状のない軽度の腫瘍マーカー上昇の場合、たいていの場合がんは見つかりません

結果が出るまで不安を抱えて過ごし、必要性のあまりない検査をたくさん受けることになります。

 

過剰医療・無駄な医療を見直す動き

Choosing Wiselyという、近年米国で始まった「根拠がないのに医療現場で幅広く行われている医療行為を見直す取り組み」があります。

要するに、有用性が明らかでない無駄な医療行為をやめましょうと呼びかけるものです。

 

日本では、有名な総合診療医である徳田 安春医師が中心となり、2015年の日本プライマリ・ケア学会誌に、日本で初めてのChoosing Wisely 5項目が発表されました。

その中の1つが以下です。

健康な人々に対して、腫瘍マーカーによるがんスクリーニング検査を推奨しない

(原文:Don’t recommend tumor marker screening for asymptomatic adults)

(Current Status of Choosing Wisely in Japan. Yasuharu T.  General Medicine 2015; 16: 3-4)

 

がんの早期発見、早期治療は重要ですが、症状がない場合の腫瘍マーカー測定がその役に立つことはあまりなさそうです。

 

(参考資料)

国立がん研究センター がん情報サービス

腫瘍マーカーの解説です

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/diagnosis/tumor_marker.html

 

腫瘍内科医によるわかりやすい解説です

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20131223-OYTEW62265/

 

 

学びを結果に変えるアウトプット大全 (読書記録)

学びを結果に変えるアウトプット大全 著:樺沢紫苑 サンクチュアリ出版

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この本を読むまでは、人に教えることで自分の理解が深まるということは何となく理解はしていましたが、積極的にアウトプットをしていくことはあまり意識していませんでした。

 

著者が示すアウトプットの6つのメリットは

①記憶に残る 

②行動が変わる 

③現実が変わる 

④自己成長する 

⑤楽しい 

⑥圧倒的な効果が出る

ということで、いいことばかりです。

 

著者自身が出版・講演・SNSやメルマガを介した発信などアウトプットの達人であり、月10本以上の映画、月20冊以上の読書、月10回以上の飲み会、年30日以上の海外旅行!など人生を目いっぱい楽しんでおられるので、説得力があり、また目標となります。

 

また、著者は精神科医で、内容は精神医学や心理学の知見に基づいており、説明も非常にわかりやすいです。

アウトプットのメリットや、どうアウトプット力を高めていくかが具体的に示され、日常の中に早速取り入れていこうと思いました。

 

また、印象的だったのは、本の終盤にあった

 

これまでの資本主義→「資本家」と「労働者」の格差

今日のデジタル情報化社会→「情報発信者」か「情報受信者」かで明暗が分かれる 

 

ということ。1%の発信者になるか、99%の受信者になるか。

選ぶ自由があるのなら、努力をして1%の発信者になる以外の選択肢はないと思います。

 

 

風疹の抗体検査、ワクチン無料化 39~56歳男性対象

「厚生労働省は11日、風疹の新たな対策として、子供のころに予防接種の機会がなかったために特に感染リスクが高いとされる39~56歳男性を対象に2019年から約3年間、免疫の有無を調べる抗体検査とワクチン接種を原則無料にすると発表した。」

www.nikkei.com

 

この年代の男性は、ワクチン未接種者が多く、風疹感染者の多くを占めています。

一般に風疹の症状としては、発熱、咽頭痛、発疹、リンパ節腫脹などで、数日間で自然に治る怖くない感染症です(稀に心筋炎、脳炎などの合併症を起こすこともあります)。

30~50歳前後の健康な男性がかかっても、命にかかわることはほぼありません。

 

では、風疹の何が問題なのか?

「先天性風疹症候群」です。

妊娠20週までの初期の妊婦さんが風疹に感染すると、赤ちゃんに障害が出る場合があるのです。

障害とは、心臓病、難聴、白内障、精神運動発達遅滞など。

 

風疹にかかった妊婦さんから生まれる赤ちゃんが、みんな先天性風疹症候群になるわけではありませんが、2012~2013年に日本で起きた前回の流行では、全国で45人の先天性風疹症候群の赤ちゃんが確認されています。

 

このときの風疹の報告数は、

2012年:2386人

2013年:14344人でした。

 

2018年は、第1~48週の風疹累積報告数:2,454人です。

このまま流行が続いたり拡大したりすると、また多くの先天性風疹症候群が起こる可能性があります。

 

特に、30~50歳前後の免疫を持っていない男性が風疹にかかり、さらに周りの妊婦さんに感染させてしまうことが問題なのです。妊婦さんと、将来生まれてくる赤ちゃんを守るために、男性はぜひワクチンを接種してほしいと思います。

 

            (参考:風疹の皮疹)

     

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過去の記事

風疹が流行中! 妊婦さんは注意! - とある内科医の日記

 

【株主優待到着】エリアクエスト、クオカード1000円分

 

エリアクエストからクオカード1000円×2が届きました!

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優待新設を発表してわずか5か月後に廃止を発表した、例のエリアクエストです。

250円前後で購入して、優待廃止発表後暴落、今は150円前後をうろうろ・・

同じように、1000円の優待取るために10000円損した人も多いようですね

 

未だに損切りできずに保有しています(-_-)

優待投資の弱点を認識させられた銘柄として、忘れないように・・。ただ単に損切りできないだけかもしれませんが(>_<)

でも市場で取引が成立しているということは、この株が上がると思って買っている人もいるということ。ほっとけばいつか上がるのかなと淡い期待で、もうしばらく放置かな・・。

 

ヤフオクをのぞいてみると、なんと「ネタ用」と称して1000円のクオカードに2000円の価格がついていました!

何はともあれ、コンビニや本屋などで贅沢できるクオカードはうれしいですね♪

 

エリアクエスト(2018/11/30)

8912、東証2部

1株株価:151円

時価総額:33.9億円  

1株配当:4.0円  配当利回り:2.65%

PER:16.18  PBR:1.93

ROE:12.65%

 

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

 

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

(FDEIA:food-dependent exercise-induced anaphylaxis)

 

食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)という病気をご存じでしょうか?

一般の方は聞きなれない病名かもしれませんが、時々診断されないまま発作を繰り返している方がいらっしゃることから、重要な病気であると考えます。

 

特徴:

FDEIAは、食物アレルギーのうち特殊なタイプで、特定の食べ物を摂取し、その後体を動かすことにより、じんましん、呼吸困難発作、血圧低下などが起こる疾患です。

 

学童~20歳前後の若い成人に多く発症します。

原因食物は、小麦が62%と最多、エビ、カニなどの甲殻類が28%、その他、そば、魚、オレンジなどのフルーツ、とうもろこし、牛乳、鶏肉、にんじんなど様々な食べ物により起こります。

上の通り、小麦、甲殻類が約9割です。

 

FDEIAが問題となるのは、アナフィラキシーという激しいアレルギー反応を起こすことがあり、血圧低下(ショック)、呼吸困難、じんましん、嘔気・嘔吐、下痢など多彩な症状を起こして、ひどい場合は死に至る可能性もあるからです。

 

また、発作の誘引となる「運動」については、激しい運動だけでなく、歩行が原因となることもあります(17%)。

私が経験した患者さんも、麺類を食べた後、早歩きで家に帰ったところでじんましん、呼吸困難の発作が起きていました。

 

 

診断:

FDEIが疑われる場合、正確な診断や今後の治療方針の確定のため、アレルギー専門医の医師による評価が望ましいと思われます。

診断法として、食物経口負荷試験が最も確実な方法ですが、どこでもできる検査ではなく、アレルギー専門医の元で行われます。

 

 

治療、対処法:

・運動前には原因食物を摂取しない

・原因食物を摂取後、最低2時間は運動を避ける

・抗アレルギー薬の内服薬なども用いられるようです

 

FDEIAは、原因食物の摂取のみ、運動のみでは起こりません。原因食物の摂取+運動がセットになったときに起こるので、上記のような対策で予防することができます。

 

 

「うどんなどの麺類やパンなどを食べて、走ったら全身にじんましんが出た、息が苦しくなった」などの経験はありませんか?

もし、思い当たることがあれば、一度医師へご相談ください。

 

お近くの専門医はこちら↓から検索できます

日本アレルギー学会専門医・指導医一覧(一般用)|一般社団法人日本アレルギー学会

 

 (食物アレルギーの分類)

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参考文献:

日本内科学会雑誌 2016; 105: 1966-1974

日本内科学会雑誌 2013; 102: 724-730